立正大学心理学部教授、西田公昭さんを講師に迎え、東京ウィメンズプラザホールで講演会を開催しました。
消費者被害は後を絶ちません。私たち消費者はデジタル時代にどのように対応していけば良いのか。だまされてしまう人間の心理を紐解き、「さ・し・す・せ・そ」で悪質商法・詐欺対策の心構えをわかりやすくお話しいただきました。講師作成のカルタの紹介もあり、楽しく学ぶことができました。
また、多くの方に参加いただけるよう後日YouTube配信を行いました。
![]() ユーモアを交えて話す講師の西田さん |
以下は、講演の概要です。
特殊詐欺の被害にあったにもかかわらず、特別に対策をしていない人は、また被害にあう可能性があります。被害にあった方はずっと犯人にマークされます。例えば電話番号。犯人は知っているのですから変えるべきです。被害にあわないためにやるべきことはたくさんあります。
なぜ、人はだまされるのでしょうか。それは、「人は疑うより信じる方が楽に生きていけるから」です。友人にお世辞を言ったり、自分の体重をごまかしたりするのはよくあることで、誰しも嘘をついたりつかれたりして日常生活を送っています。四六時中警戒したら体が持ちません。信じることの生物学的意味は最小資源の最大活用化です。人には省エネしようとする習性があるので、誰でもだまされるという前提にたった悪質商法・詐欺対策が必要です。
「さ」…さっと切り替えよう、お金の話が出たらさっと警戒して注意を高めよう!
相手が親戚や知人であったとしても、「お金が要る」とか、「個人情報を教えてほしい」と言われたら、さっと切り替えることが大事です。詐欺や悪質商法ではないか注意して見極めましょう。被害にあうのは高齢者だけではなく、投資詐欺では中高年や、若者も多いです。若者は知識がなくてだまされますが、熟年は習慣的な行動を経験であまり考えずに慣習的に行動をとるのも危険です。たとえばオレオレ詐欺。息子が大変な目にあって、お金を用意するしっかり者が騙されます。「お金の話」には警戒してください。
「し」…しっかり調べて確かめよう!
昨今のだましの技術は発展し恐ろしいものがあります。ディープフェイクといって、動画をうまく編集すると本人そっくりな声も顔も作れます。最近はインターネットを通じて買い物をする方が多くなったために世界中から狙われるようになっているということも一つの特徴でしょう。ハッキングやフィッシング、SNSやマッチングアプリなどネット経由の個人情報の漏洩はいくらでもあります。
個人情報の提供に関しては、インターネットショッピングなどでの個人情報の入力のほか、普段の生活でも自分から個人情報を伝えている場合もあることを認識して、特にしっかり調べる、正しく見極めることが重要です。
「す」…すぱっとだましの手口に気付こう!
心理学を用いただましの手口のパターンを覚えて、「ヒヤリする」とか「ハッとする」感覚を身に着けるとよいです。日常の購買場面で買わせようと誘導する原理は同じですが、悪質な業者は自分たちが儲けることだけ考えて、悪質な手口をいくつも重ねて使ってきます。
代表的な手口を紹介します。
1.稀有な機会の強調
「特別に当たった」「めったにない幸運なチャンス」など煽ってきます。心理学では希少性のルールと言い、人間は「今だけ」とか「あと残り一つだけ」とか時間や数量を限定されると欲しくなります。
2.優しすぎるセールスマン
とても親切にされるとお返ししたくなったり、無下に断れなくなるのが人間の心理です。相手はほめごろしや自尊心をくすぐってきますが、甘い言葉の後の勧誘には警戒しましょう。詐欺師は見かけや言葉遣いでは判断できません。
![]() 講師資料より |
3.絶対得する話
「無料」とか「特別に安い」とか「簡単に儲かる」という都合の良い話をする手口です。「無料」はあり得ません。始めは無料でも後からお金がかかるなど業者が儲かる仕組みがあるはずです。「新しいビジネス」にも注意が必要です。若者を中心にSNSやマッチングアプリを使ったマルチ商法のブラインド勧誘が問題になっています。一度始めてしまうとなかなか抜けられないので、「絶対得する、儲かる」といった話には最初から乗らないほうがいいです。
4.不得手な内容
自分が詳しくない商品や契約内容の場合、売り手を信じ込んでしまうという心理です。相手は専門用語を並び立ててきて、完全委任するよう仕向けてきます。
本当に大事なことを説明するには時間がかかります。聞くほうも大変で、相手は専門用語を並び立ててきます。「ハテ?」と疑問に思っても「それはおかしい」とコミュニケーションの中でなかなか言えません。すると「もうあなたに任せるよ」となってしまったりします。また、親切で丁寧に悦明してくれればくれるほど、これ以上煩わせるのは申し訳ないという罪悪感が生じがちですが、目利きができない商品や健康食品、複雑な契約内容には注意しましょう。
専門的知識がない人に生じる錯覚(プラセボ効果)が起こることがあります。思い込みというのが人には形成されて、これは効くと思い込んでいると本当に調子がよくなるという思い込みが形成されるのです。
また、過大な広告や不確かな情報によって、科学的に効果のない商品の購入や健康被害につながることもありました。
![]() 講師資料より |
5.権威者や合意者情報の強調
著名な人が使っている、薦めているとか、大変な評判だとかの未確認情報を吹聴して信頼性を高める手口です。警察官などの制服や、弁護士・医師・コンサルタント、教授や博士などの学識層の肩書も信じられやすい分野です。制服や肩書にだまされないようにしましょう。
「売上ランキング1位」「人気商品」の言葉は数字を操作していたり、サクラを使っている場合もあります。
「せ」…せいいっぱい気持ちを落ち着かせよう、せいいっぱい我慢しよう!
不安や恐怖に脅されて買ってしまうとか、罪悪感や責任感をおぼえてしまう、焦らされるといったようなことが代表的な感情の揺さぶり方法です。不安、恐怖、そして焦り、あるいは、好意、罪悪感、責任感などの感情に耐える訓練をしましょう。例えば「霊感商法」「開運商法」は不安にさせることを言いますが、すべて怪しいと思ったほうが身のためです。「国際ロマンス詐欺」の相談が急増しています。SNSやマッチングアプリで出会った良い人には、要注意です。好きだから、嫌われたくないのでお金を用立てると、最初の頃は約束を守ってお金は増えますが、最後はお金を奪われ、相手はいなくなってしまいます。
「そ」…そく、相談する相手を探そう!
悪質業者は「今、決めてもらわないと権利を他の人に譲る」と急かしてきたり、「ここだけの話」と言ってきたりしますが、内緒にするように忠告されたら、不審に思ってほしいです。
一緒に友達がいても「一人一人説明します」と言われたら危ないと思ってください。
そして、被害にあう前にまず問い合わせること、警察や消費生活センター、家族、友人などに相談してください。
![]() 講師資料より |
知っていてもだまされるということが、現実に起きています。詐欺・悪質商法から身を守るには知識を得るだけではなく、日頃から対応の訓練が重要です。
手口はどんどん新しくなりますので、このデジタル時代には知識のアップデートが必要です。また、ロールプレイやゲーム形式の体験を導入するなど、突然に出くわす罠に正しい咄嗟の判断や行動を練習して鍛えておく、対応の訓練、断る練習が大事です。訓練の5か条は「過信を捨てる」「怪しさにきづく」「忍耐強くなる」「はっきりと断る」「味方を見つける(相談する)」になります。
コロナ時代を経て高齢者もネットで買い物をするようになり、ネット社会は一気にひろまりましたが、国際的な問題もあり、無法地帯とも言えます。そのなかで、消費者は商品を買う、契約する行動をとります。詐欺・悪質商法の被害はこのままだと増え、それを防ぐためには、国全体で連携を強め、対策を取らねばなりません。法律は人間は強いものとして作られている傾向にありますが、感情にほだされない人はいません。人間は弱いものという前提にたって、対策を練る必要があると思います。
「さっと」「しっかり」「すぱっと」「せいいっぱい」「そく」の「さしすせそ」で心構えを、ヒヤリ・ハットに気づく力をトレーニングや訓練によって身につけて、消費者被害から身を守るようにしましょう。
そして、皆さんの力で東京都、日本全体の詐欺・悪質商法を少しでも減らせるように協力していただければ幸いです。
![]() 会場の様子 |
・「さしすせそ」の標語を用いたご説明で、理解しやすかったです。
・心理学からの説明はとても良かった。日常生活に生かせればと思います。
・「気づく、断る、相談する」練習をしてみようと思いました。その一方で、それでもひっかかった場合の救済のため、法律の改正や消費者センターの拡充を進めてほしいと思いました。
・違法ではないが、グレーゾーンのセールストークに関心を持ちました。最近、サプリメント、シミ・美白の薬品などを購入しましたが、セールストークに「なるほど」と思う点が多くありました。詐欺ではないけれども注意しなければと感じました。
・詐欺の手口もどんどん変わっていく中で、今日の先生のお話にあったように、訓練することが大切だと感じました。「さ・し・す・せ・そ」を思い出しながらやってみます。
・経験則に基づく判断が危険にさらされまくっていることがよくわかった。ちょっとした注意力を発揮できるよう、日常の注意力を養いたい。