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イベントレポート

開催日時:令和5年12月6日(水)13:30~15:50
会  場:ホテルエミシア東京立川 スカーラ
講  師:小笠原 勝さん (宇都宮大学名誉教授)
共  催:東京都消費者月間実行委員会
      東京都農業経営者クラブ
      一般社団法人東京都農業会議
      公益財団法人東京都農林水産振興財団
参 加 者 :113人 (消費者・農業者等)

 消費者と農業者が一堂に会し、ともに学び交流するセミナーを4年ぶりに開催しました。はじめに、東京都消費者月間実行委員会 眞鍋重朗委員長、(一社)東京都農業会議 相原宏次事務局長、(公財)東京都農林水産振興財団 岩瀨和春理事長から開会のあいさつがあり、続いて宇都宮大学名誉教授の小笠原勝さんを講師にお迎えし、「雑草と私たちのくらし~雑草から農業と環境を考える~」と題し、講演いただきました。その後、消費者と農業者・行政とで交流会を行い、最後に東京都農業経営者クラブ 吉野光政会長からの挨拶で会を閉じました。
 以下、講演会の概要です。

講師の小笠原 勝さん
 

はじめに

 雑草と社会との関係、防除について、いろいろなことをお伝えする中で、これからの農業や環境について考える一助となることを願っています。

 

雑草とは

・雑草の定義
 雑草の定義は主に2つあります。1つ目は人の価値観に基づく定義。「農地の経済価値を低下させる作物以外の草本(荒井正雄氏)」また、「人類の活動と幸福・繁栄に対して、これに逆らったりこれを妨害したりする全ての植物(米国雑草学会:1985年)」とされています。
 2つ目、植物の特性に基づく定義。「外的な干渉や生存地の破壊が加えられていないと成立・存続しないような特殊な一群(笠原安夫氏)」。その他に、「その美点がまだ発見されていない植物(Ralph Waldo Emerson)」という定義もあります。

 

・農耕地雑草の起源はどこか
 土壌の撹乱かくらんが起こる場所、つまり畑などの農地と土砂崩れの起きる山岳地帯の圏谷けんこく(カール Kar)を見ると、農地の植物と圏谷の植物の起源は同じで、シロウマタンポポやセイヨウタンポポ、エーデルワイスなどがあてはまります。また、間隙かんげき雑草(都会の道路の隙間の雑草)を調べたところ、川原の雑草と似ていました。川原と道路の環境は似ているといえます。

 

・雑草という言葉
 江戸時代は雑草を草と呼んでいました。新田開発が進み、必要な水や肥料がないため、山から刈った草を肥料にしたり、助馬すけうまの餌としたりして重用されました。明治の頃に「人間に役立たない草本」を雑草と呼び始めました。

 

・雑草の有用性
 1つは食用になることです。「スベリヒユ」は山形県では「ヒョウ」と言って食べられています。セイヨウタンポポは明治政府が北米から野菜として導入し、今でもたんぽぽコーヒーとして売られています。
 他に、phytoremediation(ファイトレミディエーション)という植物を用いた不良環境(重金属の汚染土壌)の修復技術があります。イヌビエなどのイネ科の植物はカドミウムや銅に強く、根に保持する性質があります。ツユクサは友禅染の下絵に使われ、カラムシは織物にも使われます。

 

・雑草の起源
 Dump heap theory (ゴミ溜理論)は、弥生時代から定住化が進み、家の周りの土壌が高窒素となり、その周りに好窒素植物が出現したというものです。それらが自然のものと交雑し雑草が出現したとされています。

 

・雑草は作物の祖先
 エンバクはカラスムギ、イネはアカマイ、アワはエノコログサ、ダイズはツルマメ、ナタネはセイヨウカラシから作られました。雑草は作物の起源です。東京の縄文時代の遺跡からツルマメが見つかっていて、すでにツルマメが作物の候補になっていたことが分かります。そして、弥生時代になると大豆が出現しました。

 

・雑草の位置づけを考える
 雑草は農地だけでなく、不特定多数の市民が関わる川、道路、公園などさまざまな場面に生育しており、害作用だけでなく、多くの有用性も持ち合わせています。このことが、雑草に対する解釈を難しくしているとともに、公共場面での雑草管理の在り方を複雑にさせています。

 

雑草害

 雑草害には、作物の競合、病害虫の宿主、毒、花粉源(花粉症)、見た目が悪い、道路などの耐久性低下、イノシシなどの野生鳥獣の生息拡大などがあります。
 雑草害の特徴は点ではなく面的であること、不特定多数の市民が関わる道路、河川、公園など評価基準が様々で難しい場面で問題になっていること、経済損失は莫大であるが客観的な評価が難しいこと、実際に困っている人(農家)以外は他人事で、当事者が少ない都市では議論のテーマになり難いという点があります。
 雑草を管理する際に考慮すべき点は、費用対効果(コスト)や、人畜に対する安全性は当然ですが、受益者と管理者との合意形成をしながら、できるだけ安く管理することが求められます。
 雑草害で問題になっている場所は、図のとおり農村から都市まで、農地、宅地、芝地、道路、河川と様々です。

小笠原さん 資料より
 

雑草害の具体的例

1 病害虫の宿主となります。
 特に施設園芸のトマトやイチゴにつくウィルスは、その前に雑草についており、施設園芸ではハウスの中だけでなく外もきれいにする必要があります。水田農家が一番嫌うのがホソヘリカメ(カメムシの一種)です。米が柔らかい時期に吸われ、斑点米となり等級が落ちます。そのため、農家は出穂前に自分の田んぼの周りだけでなく、道路や河川など徹底的に草刈りをします。

 

2 花粉症
 ブタクサ(キク科)、カモガヤ・スズメノテッポウ(イネ科)など花粉症を起こします。セイタカアワダチソウは実は花粉源ではなく、アメリカでは州花や蜜源植物として愛でられています。

 

3 有毒雑草
 ヨウシュヤマゴボウやムラサキケマンなどあります。ヨウシュヤマゴボウは間違えて食べて中毒になる人が年間相当数います。シロバナチョウセンアサガオは「華岡青洲の妻」で知られた麻酔薬(通仙散)の原料で、中国にはたくさん生えています。

 

農業場面における雑草害

1 直接的な害
 ヒエやアサガオは作物の収量低下につながります。イヌホオヅキは品質を低下させます。

 

2 間接的な害
 アサガオ、クサネムなどの影響で農業機械が動かなくなり作業効率が低下します。カメムシなどは病害虫の発生源になります。田んぼを大型化すると生じる法面のりめんには、やせた土地を好むオオアレチノギク、セイタカアワダチソウなどしか生えてこなくなり農村の景観は低下します。

 

3 その他の雑草害
 牛乳の品質低下(カラクサナズナは匂い被害)、毒草(広葉植物がサイレージに混じるとエサが全滅)、野生鳥獣の生息域の拡大、林業地の管理:木障場こさば地拵じごしら、間伐(クズ)などで問題になります。

小笠原さん 資料より
 

雑草害の数値化

 日本の代表的な作物であるコメを代表に考えてみます。除草剤の経済効果について、人力除草との比較から求めた場合は、1兆162.5億円-433.6億円=9,728.9億円
 つまりこれだけ金額がういているということで、除草剤の使用が正しいか正しくないかは別として考えてほしいことです。

 

わが国の農業総産出額と雑草による損失

 日本の農業生産は、コメから野菜などを含めて約4兆3千億円ですが、雑草による損失は農業場面のみで約7,000億円と試算されています。(農林水産省H30年度)日本の基幹産業は10兆円以上をいうので、きわめて重要な農業が基幹産業ではないということになります。

小笠原さん 資料より
 

河川(堤防)

・河川の除草経費
 河川は全国で総延長14万4千㎞。堤防の総面積は推定約57万ha。洪水対策は大変重要です。国直轄管理区間は約1万㎞で、除草経費は242億円ですが、とても足りず、必要な河川の維持管理は出来ていません。以前は年に6回草刈りしていたのが、今は2回になり、堤防は草がぼうぼうになっています。全ての一級・二級河川を除草すると、2,833億円掛かります。一旦、堤防が破綻すると多額の経費が掛かるため、平時からの管理が重要です。

 

・河川における雑草害
 堤体(堤防の本体)の弱体化、流路阻害(水が止まる)、景観の悪化、花粉源などあります。堤防は本来、洪水防止のためにあり、土壌保持力の強いイネ科の植物シバ(チガヤ)が必要です。除草を減らした結果、セイヨウカラシナが増え土壌が保持できなくなり、弱い堤防が増えました。これを防ぐには刈り取り回数を増やすか、刈り取りに替わる新しい技術が必要です。それが植調剤(植物生育調節剤)による植生抑制です。
 ごみの不法投棄の助長という問題もあります。きれいにするとごみは捨てないものです。

 

・河川堤防の雑草管理
 河川の堤防で刈った草を持ち出して燃やさなければならず、面倒でお金がかかります。渡良瀬川の実験で、生育抑制剤という化学物質=除草剤を使ったところ、枯れはしませんでしたが、植物体は小さくなりました。しかし、平成3年に国土交通省で「農薬を使わない」と事務通達が出ているため、現在は人力除草しかない状況です。

 

道路

 国内の道路は総延長約121万㎞、除草経費は約854億円です。雑草による苦情は意外と多く寄せられています。高速道路の中央分離帯は、草取りのために通行を止めることはできず、必要性はわかっているができない状況です。鉄道も総延長27,500㎞あり、雑草のクズが生えてレールに乗ると、列車が滑ります。
 このように道路や鉄道などにも雑草の問題があり、莫大な面積で莫大なお金がかかっていますが、これらは表に出て来ていません。

 

中山間地域

 中山間地域の面積は2400万ha、日本全国3700万haの6割近くを占めています。栃木県大木須における雑草害を学生と調査した結果、場所別の除草時間は、私有地トータルで82.5%。公共地は14.1%、隣家は3.4%でした。農村は共同社会(ゲマインシャフト)なので、頼まれもしないのに隣地の除草を行っています。対して都会は利益社会(ゲゼルシャフト)ですので、草が生えたら自治体がやればいいという考えがあります。
 分担者別の除草手法別除草時間を調べたところ、5年前の調査ですが、「高齢者」が「世帯主」に次いで、かなりの時間草取りに従事していることが分かりました。あと5年もしたら分担する人はいなくなり、集落は崩壊していきます。
 手法別の除草時間をみると、手刈り・鎌、刈払い機、除草剤のうち刈払い機が58%と一番多いです。除草剤は2.8%です。評価が難しいですが、除草剤がなければほかの作業に手が回らないという現状があります。
 大豆かすや米ぬかを用いた水田除草は、カヤツリグサなどに限定的です。アイガモによる水田除草は糞による環境劣化を考えなければならず、手間暇とコストもかかります。また効果も限定的です。

小笠原さん 資料より
 

農薬

 雑草及び病害虫の防除に用いられる化学成分は500種以上あり、農薬取締法で管理されています。
 殺菌剤は鉱物由来で紀元前からあります。殺虫剤は植物由来で、除草剤は70年くらい前につくられました。
 パラケルスス(スイス人、1493年~1544年)は、「全ての物質には毒性がある。毒性のないものはない。量が毒か薬を区別する。単に有無だけで、毒だと判断するのは非科学的である。」と言っています。そもそも農薬は食べるものではありません。
 消費者が利益と利便性が理解できない場合(農薬)、リスクが不公平と感じる場合(火葬場やゴミ最終処分場)、隠蔽された重大な被害があると思われる場合などは、人はリスクを感じ農薬を拒否します。ですが、自動車のように自分に利益・利便性が理解できたり、アルコールやタバコなど自発的に受入れられたりすると害があっても許容する、自分に良ければいいという考えがあります。
 1975年には農業就労人口は約800万人でしたが、今は150万人を切っていて、全就労人口に対する比率は2.4%。つまり国民の大多数が非農家なので雑草の防除は他人事で、しかも除草剤が雑草を枯らすメカニズムが分からないために、農薬が悪いという方向に進んでいるのかもしれません。
 田んぼの周りで生き物が減った原因は何か、毒性の強い農薬による環境破壊か、コンクリート製の3面張り水路のせいか、暗渠排水による水田の乾田化のせいか、土地開発による湿地や後背林地の減少のせいか、あるいは生活排水による河川汚染のせいか。「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎著)に述べられている『網目の法則』と同じように、いろいろな事柄が関わっています。
 農薬の毒性の種類で分けると急性毒性、慢性毒性、作物残留性、魚毒性、土壌残留性となります。飲んで24時間以内~48時間以内に発症した場合が急性毒性で、農薬を散布する農家への影響であって、消費者には関係ないものです。
 昭和30年代の農村では、農家が腰を曲げて草取りしていました。10a当たり50時間を要した除草時間が、今は2.5時間。47.5時間の差が生じ、兼業化により、農家の次男三男は工業化の労働力となりました。除草をやめたら、もう一度草取りをしなくてはならない時代が来るかもしれません。

 

農薬をどう考えたらよいのか?

 農薬は毒であるか?→毒性はありますが、使う対象と量によります。
 環境に悪い?→今日のタイトルは、「雑草から農業と環境を考える」です。農薬によって生産性は上がります。
 使用を控えるべきだ?→意見としては良いですが、重要なことは代替技術を提案すること。それがなければ無責任な提案です。
 食糧は足りるのか(東大名誉教授 宮崎毅)→農地面積は2009年→2059年と5%増だが、食糧需要2009年→2059年には70%増となります。農地は限界がありますが、食料は必要です。生産性を上げていかなくてはなりません。

 

最後に

 少子高齢化が加速する中で、どうやって食料自給率を高め、国土と自然環境を保全していったら良いのか?
 雑草ほど生活に密着している植物もないし、除草剤ほど世間一般から悪く思われていながら、農業や環境保護に役立っているものもありません。雑草と除草剤から環境と農業を考え直すと、新しい展開が見えてくるのではないでしょうか?

 

講演会の感想

・日本の農業や自然環境をまもるために、また都市での生活を成り立たせるために、雑草とどう付き合っていくのか、大きな問題だと思いました。

・日頃より農業生産において薬剤は必要であり、消費者へのアピール方法が見出すことが難しい事柄であった。今回の講演内容はとてもヒントになった。東京の中でもっと聞いて欲しいと思った。

 

交流会の感想

・農業従事者の方の意見や現状を聞くことができ有意義でした。若い人達も最近は農業に関心を持つ人が多いのではないかと思います。農畜産、林業や水産業も含め、携わる人々が経済的にもやっていかれるような社会になることを希望します。

・農業者として消費者の方と現状の農業生産について話せて良かったです。また、次の機会を楽しみにしています。

活発な議論が交わされた農業者と消費者の交流会
   
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