「大量生産、大量消費」から地球にやさしい「エシカル消費」への転換。未来世代のためにも喫緊の課題です。エシカル消費に詳しい中原さんに、どのように消費のスタイルを変えるかをお聞きし、WEBで公開配信しました。
以下は講演の概要です。
まず、20世紀に消費が環境に与えた影響を見ていきます。石油消費が増えると、温室効果ガスの1つである二酸化炭素が、急増していきます。ハワイ大学のカミロ・モラ教授(地理学者)の調査によると、異常気象につながる大きな要因が地球温暖化であり、いずれ異常気象は「普通」の気象になる。その期限は、2047年だということです。さらにモラ教授が指摘しているのは、四季がなくなる「Climate departure」(日本語訳「気候離脱」)が起きることです。(Climate departure Years in Asian Cities by Camilo Mora et al)。
自然災害は、どんどん激しさを増す一方です。夏の北極海氷の減少がジェット気流を大蛇行させていると、アメリカ航空宇宙局(NASA)が説明しています。この大蛇行の影響で、沿岸洪水リスク、飢餓リスク、感染症などのマラリアリスクや、水不足リスクが世界中で起きてきて、1.5℃から2℃の気温の上昇で、急激にリスク人口が増加しています。新型コロナウイルスもマラリアリスクの一つであるという研究報告もあります。
アメリカの進化生物学者ジャレド・ダイアモンド博士は、著書『文明崩壊』の中で、イースター島の悲劇が教える消費の限界について語っています。イースター島では1万人足らずの人が、数十年で全ての資源を食いつぶし、最後は絶滅しました。イースター島を地球に置き換えると、地球の未来を予測することができます。
1972年ローマクラブが発表したレポート『成長の限界』では、2020年には、地球は成長の限界を迎えると指摘しています。太陽の恵みは地球に資源を与えますが、テクノロジー技術を開発した私たちは、湯水のごとく資源を使ってしまったのです。世界でも有数なドイツのヴッパタール研究所が科学的な根拠を提出しています。2050年までに二酸化炭素の排出量を80%近く削減、セメントや鉄、アルミニウムをそれぞれ90%近く削減、さらにダイオキシン等の塩素は、100%削減しなければ、生物の多様性は守れないということを言っています。(ヴッパタール気候・環境・エネルギー研究所 「持続可能なヨーロッパ」報告書)。その報告書の中では、「持続可能なライフスタイル」に暮らし方を変え、愛する家族、愛する人と共に、歌い、笑うという当たり前の、『環境にやさしい時間の使い方』をすることが提案されています。
SDGsの前文には、「私たちは貧困を終わらせることに成功する最初の世代」であり、また「地球を救う機会を持つ最後の世代になるかも知れない」とあります。
経済成長や便利さを維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく。「経済成長と資源消費の切り離し」が「デカップリング」です。人間が生きるための基本的なニーズを満たし、生活の質を向上させながら、天然資源と有毒物質の使用を最小限にするという考え方です。
将来世代のニーズを抑えずに、製品やサービスのライフサイクル全体にわたる廃棄物と汚染物質の排出を最小限に抑えることが必要です。
消費の現実はどうなっているのでしょうか?衣生活部門では、2013年にバングラデシュの首都ダッカで、縫製工場が入っていたビルが崩壊し、多数の犠牲者を出す事件がありました。食生活部門では、日本において、2008年~2013年、産地偽装、表示偽装が社会問題となりました。住生活部門では、2005年以降、耐震偽装事件やマンションの杭打ちデータ偽装などが発覚しました。また、自動車では、日本や海外でも大規模なリコールが発生し、業界全体の信頼を揺るがしました。
スマートフォンやパソコンなど、私たちが何気なく利用しているデジタル機器に使う希少金属を採掘するために、多数の子供達が危険な鉱山で働くという児童労働の問題にとどまらず、資源の取引から得られた利益が武装勢力の資金源として使われています。
こういった衣食住、移動、通信に関する様々なことから、いろいろな問題が潜んでいることに関心を持つようになりました。
「エシカル消費への道のり」を1枚のグラフにしました。1970年の世界初のアースディ宣言(1970年3月21日サンフランシスコ市。)、1972年の第1回国連人間環境会議(ストックホルム)で、国連環境計画(UNEP)が発足します。1992年リオサミットで持続不可能な消費を議論。2002年ヨハネスブルグサミットで持続可能な消費と生産(SCP:Sustainable Consumption&Production)が議論されました。さらに、2012年「リオ+20」で「私たちが望む未来」というアジェンダが作られます。2017年には、「ISO20400持続可能な調達」という国際基準に呼応するように、私たち日本エシカル推進協議会も発足します。
イギリスの「エシカル・コンシューマー」代表のロブ・ハリソンが参考にしたのは、1969年にアメリカでAlice Marlin(アリス・マーリン)が創立した、CEP(セップ)という協議会です。CEPは、金融機関や企業へ戦争に加担しないエシカルな投資を求めました。社会的責任投資の始まりです。
エシカル・コンシューマーのエシカル評価基準は、①動物の権利 ②環境問題 ③人権問題 ④社会参加 ⑤持続可能性 です。エシカル・コンシューマーに大きな影響を与えたのがアメリカで出版された『Shopping for a Better World』です。環境、労働環境、社会貢献活動、家族の福祉、女性登用、マイノリティの登用及び情報開示の観点で企業を評価しました。この動きがやがて企業の社会的責任(CSR:Corporate social responsibility)という言葉を生み出しました。
そして、ミューチュアル・ファンドと呼ばれる、環境問題、女性やマイノリティ、人権、雇用に関する問題を排除した企業を対象とする投資信託が増えてきました。こういった株を買い支えしようという動きが、倫理ファンド(ethical fund)というかたちに変わっていき、今日のESG投資(環境・社会・ガバナンス要素を考慮した投資)につながっていくわけです。エシカル消費はお金による投票であり、ボイコット・バイコット、良い物を選んで、そして悪い物は買い控えしましょうと、大変分かりやすい消費行動基準が生まれました。
私は持続可能な消費はエシカル消費で実現できると考えます。90年代の後半から「CSR(企業の社会的責任)」が問題になり、2010年には「ISO26000」という国際基準ができました。さらに、人権問題を強調するかたちで、2017年「持続可能な消費と調達」ができ、同時にエシカル消費という概念が生まれてきました。これを日本で分かりやすく言いますと、「買い手よし」、「売り手よし」、「世間よし」という「三方よし」です。
持続可能な消費とは意識改革と教育を通じて消費者を巻き込むこと、消費者に基準とラベルを通して適切な情報を提供することです。日本エシカル推進協議会では、2021年10月13日に「JEIエシカル基準」(8つの大項目、43の中項目)を公表しました。これは消費者庁のホームページに掲載されていますので、ぜひご覧ください。
皆さん、2030年、私たちの世界はどうなっているのでしょうか?
まず、お考えいただきたいことは、「お金が増えたら本当に幸せになるのか」ということです。
科学者のレイチェル・カーソンが、技術の安全性を懸念する論文を書き、1962年『沈黙の春(Silent Spring)』が出版され、世界中が共感しました。ケネディ大統領が提唱した「消費者の4つの権利」とは、「安全を求める権利」「知る権利」「選ぶ権利」「意見が聞き届けられる権利」で、消費者の選択判断基準となりました。
しかし、現実はどうなっているのか。お金は増えたけれど、幸せにはなっていないというのが、1993年に発表されたロッテルダム大学のヴェンホーヘン教授の『Income &Happiness』という研究成果です。
さらに、フォーダム大学が1970年から毎年、社会健康指数「Social Health Index」を発表してきました。この発表によると、1985年を境に、豊かにはなったが、社会健康指数は、どんどん下がりはじめています。社会健康指数を下げてきた理由は何なのか。市場経済の在り方がおかしいのではないだろうかという見直しの機運が起きてきています。
2021年1月には、ダボス会議(世界経済フォーラム)で、「環境リスク」「経済リスク」「地政学的なリスク」「社会リスク」「技術のリスク」私たちを危機に直面させているという指摘がなされました。です。
地球環境の枠組みづくりの中心である持続可能な生産と消費の実現をしなければなりません。私たち先進国の「北」の消費習慣の大幅な転換を行うと同時に、北と南の関係の再評価をやらない限り、貧困を終わらせることはできないし、貧しい国々は、工業化で、命、健康そして環境を蝕まれていくという現実を変えられません。
2019年の飢餓人口は世界で6億9,000万人に達したというユニセフの2021年レポートが出ました。さらにユニセフの報告書の中では、新型コロナの結果、2020年は、最低でも8,300万人、場合によっては1億3,200万人が、この感染症が原因の飢餓に陥るのではないかと言っています。(The state of Food Security and Nutrition in the World 2021)
地球環境の枠組みづくりの中心である持続可能な生産と消費の実現をしなければなりません。私たち先進国の「北」の消費習慣の大幅な転換を行うと同時に、北と南の関係の再評価をやらない限り、貧困を終わらせることはできないし、貧しい国々は、工業化で、命、健康そして環境を蝕まれていくという現実を変えられません。
2019年の飢餓人口は世界で6億9,000万人に達したというユニセフの2021年レポートが出ました。さらにユニセフの報告書の中では、新型コロナの結果、2020年は、最低でも8,300万人、場合によっては1億3,200万人が、この感染症が原因の飢餓に陥るのではないかと言っています。(The state of Food Security and Nutrition in the World 2021)
持続可能な消費と生産が本当に出来上がっているのかということをきちんと考えなければなりません。子供の目線で未来を論じることが大事です。「大人は老衰で死ぬが、僕らは気候変動で死ぬ」とは、誰が言ったのでしょうか。30年前のリオサミットで、12歳の少女が「大人のみなさん、どうやって直すのかはわからないもので、地球を壊し続けるのはもうやめてください。犠牲になるのは私たち子供の未来です。」と訴えました。この子供たちに私たちは、なんと言えるでしょうか。
市場が経済的役割を果たすためには、「機能をする市民社会が不可欠である。そして、市場の社会的役割については言うまでもない。」というピーター・ドラッカーの言葉を最後に取り上げて、私の話を終わります。
・消費行動の基礎から明快に紐解き、過去から未来へ成果と課題をデータやイラストで分かりやすく説明し、私たちの行動が引き起こした現実を直視して、私たち自身が未来のために豊かな地球を取りもどす努力を、地球規模で考えて行動していかなくてはいけない危機感を感じる講演でした。
・消費の力で、世の中を変えられることを確認できた。視野が広くなるお話だった。
・具体的にはどうすればエシカル消費になるのか? 自分ではそうしているつもりでも、そうなっていないかもしれない。自分だけではどうにもならないこともあるのではないか。結局は、一人一人が時間をかけてこの問題意識をもっと深めていく以外に道はないのではないか。どれだけの人がそうするだろうか?