このセミナーは、例年、講演会のあとに、農業者と消費者がいくつかのグループに分かれ、意見交換をする交流会を行う形で実施していました。今回は、コロナ禍の中、感染防止策の徹底を図りながら、講演会(参集型イベント)のみを開催しました。
まず、東京都消費者月間実行委員会 平野祐子委員長、(一社)東京都農業会議 青山佾会長、(公財)東京都農林水産振興財団 岩瀬和春理事長から開会の挨拶があり、その後、講師の三橋功治さんの講演が始まりました。三橋さんは、財団法人日本気象協会岡山支部、中央本部・関西支社を経て、株式会社ジェイウェザー大阪営業所長後、2009年株式会社三隆国際気象代表となられ、現在は同社の代表取締役を務めておられます。同氏は気象予報士や防災士、気象防災アドバイザーなどの資格を持ち、気象予測業務や教育関係や企業等での講演活動もされています。また、「気象は地球全体の動きであり、より精度の高い気象予測には精度の高い観測データが世界全体として必要である」と提唱されていることから、開発途上国での気象観測の国際協力の場でもご活躍されています。
当日の講演の概要をご紹介します。
![]() 検温にご協力いただく参加者 |
気象というと、皆さんがイメージされるのは、テレビ等で気象を解説する「気象キャスター」だと思います。しかし、気象の専門分野は様々あります。皆さんが毎日触れている「天気予報」(一般向け気象予報)のほかに、特定向け気象予報、防災気象や、観測データの収集といったICT関連、気象情報啓発・教育も入ってきます。気象キャスターは、必ずしも「気象予報士」の資格がなくてもできますが、決められた時間内に、視聴者に分かりやすく気象情報を伝える能力が求められます。
今回は、農業と気象の関係や、気象現象が原因で増えている自然災害からどう逃れるか等について、お話します。
![]() 関西弁も交えて熱く語る、講師の三橋さん |
私は農業のプロではないので、どの作物に対して、どういった気象情報が必要なのかという情報をお話できません。おそらく長年農業に従事されている方は、それぞれの作物に影響を与える気象については、既によくご存じと思います。ここでは、様々な気象データの観測方法や営農活動に関わる気象要素の何を見るかをお話します。
かつて、気象庁は、農業に深く関連する「地中の温度」や「蒸発量」の観測などをおこなっていましたが、現在はほとんど行われていません。営農活動に関わる気象要素である低温・高温、日照、降雨・降雪、雹(ひょう)、凍霜(とうそう)、風、火山灰についての観測値や予想等の情報を、気象庁のホームページから得ることができます。しかし、これらのデータは、あくまで気象官署での観測値や予想であり、決して、皆さんの田畑の気象要素を観測したり、予想したりしているものではありません。このため、気象庁や地元気象台が発表する情報をそのまま利用するのではなく、「変化傾向」をつかみ、ご自身の田畑に応用することが重要です。これはすごく難しいことかもしれません。
![]() 間隔をあけた座席配置 |
農作物も大切ですが、ご自身の命が何よりも大切です。屋外で活動する時に、気を付けていただきたいことをお話します。
●熱中症
温度や湿度等から熱中症を発症する状況であるか否かを知らせてくれる機器もあります。また、地元気象台の発表する情報を利用し、屋外作業時は熱中症にならないように注意しましょう。
●雷
私達は、雷に撃たれれば、生命の危機に直面しますので、気象台は注意を促すため、雷注意報を発表します。雷は積乱雲(入道雲)の中でよく発生しますので、まず、積乱雲を探しましょう。積乱雲と言えば、このようにモクモクした雲をイメージされる方が多いと思います。確かにこれは積乱雲ですが、モクモクした積乱雲を見つけても、ご自身のいらっしゃる場所からその積乱雲までは10Km以上離れていることが多いようです。しかし、それよりも危険な状態があります。積乱雲が自分の頭上に来た時です。その時は、写真のようなモクモクした雲は見えず、空は真っ黒になり、いつ雷に撃たれてもおかしくない状態になっているはずです。こうなる前に、逃げておかなければなりません。もちろん10Km以上離れたところにある積乱雲も注意しておくことも必要です。
![]() 積乱雲(講演のスライド資料) |
皆さんへの質問です。台風は災害でしょうか。答えは、災害ではありません。災害を引き起こす「原因」です。ここで、台風について少し、お話します。台風は、北西太平洋に存在する熱帯低気圧のうち、低気圧域内の最大風速がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを指します。テレビやインターネットや新聞等で、台風の予想図の予報円の半径が以前より小さくなっていることに気付かれている方がおられるのではないでしょうか。予報円の半径が小さいということは、「台風の勢力が弱い」ということではありません。「台風予報の精度が向上した」ということです。台風の「上陸」と「通過」ですが、実は、今年(2020年)は台風の上陸はゼロでした。しかし、台風が来なかったわけではありません。「上陸」は、台風の中心が北海道・本州・九州の海岸に達した場合をいい、「通過」は、台風の中心が、小さい島や小さい半島を横切って、短時間で再び海上に出る場合をいいます。つまり、気象庁では、「台風は沖縄に上陸する」とはいいません。
災害には様々ありますが、その原因が、気象現象であることが多いです。この原因を取り除けば、災害を防ぐことができますが、人間は、「自然災害」を取り除くことができません。ですから、命や財産を守るには、「自然災害から適切に逃げること」が重要です。
温暖化が進んでいるのか、異常気象は増えているのかといったことをよく聞かれますが、実はこの判断は難しいです。私なりに、観測値から考えてみます。例えば、「最高気温」を見てみると、最高気温の更新は、ここ数年に集中しています。一方で「最低気温」については、最も低かったマイナス41度の記録は1902年のもので、トップ10の中をみてもすべて20~30年前のことばかりです。つまり、寒い方の更新はされていないということです。最低気温の「高い」記録は、2019年新潟県糸魚川で記録された31.3度が最高ですが、これもここ2~3年で更新され続けています。気温を見ると高い方ばかりが、ここ数年更新されていることになり、やはり温暖化が進んでいるように見えます。
戦後20年~30年は、水害による死者が多く、近年は、4~5年の周期で大きな水害が発生していますが、死者は戦後に比べれば少なくなっています。こういった死者数で災害を評価することもできますし、農作物の被害や損害保険の支払額で災害を表すこともできます。このように何を「災害」の指標とするかによって、「災害が増えているかどうか」の評価も変わります。災害は様々ありますが、災害から身を守るには、「安全に避難する」ことが重要です。
では、安全に避難するために、知っておいてほしいことをお話します。
まず、気象警報と避難情報は、発令する機関が違うということを知っておきましょう。気象庁が「気象警報」を発表し、市町村長が「避難情報」を発令します。市町村は、「気象警報」のほか、河川の水位、ダムの放流情報等をもとに住民を避難させるか否かを判断し、「避難情報」を発令しています。つまり、災害時の避難ということにおいては、市町村は非常に重要な役割を担っていると言えます。
そして、平時から自分の住んでいるところ、勤めているところのハザードマップなどを見て、どこに、どのルートで避難するかをイメージすることが重要です。災害が発生する恐れがある時は、素早い判断と早め早めの行動が必要です。安全を確保できるのであれば、ご自宅に留まるのも選択肢の一つです。
また、防災情報や気象情報の情報源は複数持っておきましょう。例えば、サイレン、テレビ、ラジオ、スマホ、インターネット、そして、重要なのが「ご近所」です。
内閣府が作成した「警戒レベル4で全員避難」というチラシも配布します。災害時だけでなく、ぜひ、平時にお読みいただき、参考にしてください。
![]() 参考資料 内閣府(防災担当)・消防庁作成 表面 |
・普段聞くことのない気象予報の話について聞くことができ、興味深かったです。
・気象用語などをわかりやすく解説いただきました。今後、天気予報を見たりする際、情報の捉え方が少し変わるような気がした。そして防災につなげて行きたいと思いました。