メインシンポジウムは、例年、ウィメンズプラザで行われていますが、今年は、コロナウイルス感染症の状況を踏まえて、初めてオンラインで実施しました。
講師に、東京大学大学院工学系研究科教授の梅田靖さんをお迎えし、新しい経済モデルとして、注目を集めている、「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」についてお話をいただきました。
梅田さんは、オンラインでの講演をされているとのことで、撮影はスムーズに行うことができました。
以下は講演の概要です。
撮影の様子 |
オンライン配信の画面 |
持続可能問題(サステナビリティ)の特質は、気候変動問題、オゾンホール問題、廃棄物・ごみ問題など、地球全体の問題と、地域の問題、さらには、世代間の問題が複雑に絡み合っていて、無数のトレードオフが起きている、つまり、2つのものがあったときに、あちらを立てればこちらが立たずということが起きていることです。
例えば、リサイクルを推進した場合に、エネルギーが多くかかってしまうと、地球温暖化には、かえって悪い影響がある、といった具合です。
このような複雑な問題が絡み合っているがために、一般的な価値基準が存在しない、というのが最大の難しさです。
現在、ヨーロッパでは、「サーキュラー・エコノミー(CE)」という政策を進めています。これは再生可能な資源(植物や動物の資源など)と、枯渇性な資源(金属資源や化石燃料など)が、リユースやリマン(※1)、メンテナンス、アップグレードなど、高度な循環経路を経て、もう1回戻ってくる。そのような経済システムを目指しているものです。
サーキュラー・エコノミーの考え方は、今までの大量生産・大量消費ではなく、持続可能な材料の利用ということで、ごみではなく資源、大量生産でなくカスタム化、枯渇ではなく再生といった形で、資源を有効に利用する。併せて、ものを所有するのではなく、シェアをするといった考え方に、消費者の価値観を変えていこうとするものです。
サーキュラー・エコノミーのイメージ図 (講師提供の資料より) |
その結果、経済システム自体が、循環経済に変わるということを期待しています。
日本では資源循環に関連する政策として、いわゆる、リデュース・リユース・リサイクルの3Rによって最終埋立処分量を半減するという目標が立てられました。
国・自治体・事業者・国民が、それぞれ役割分担をし、事業者や国民は、「排出者責任(PPP)」として責任を取ること。メーカーや生産者は、「拡大生産者責任(EPR)」として、つくったものについては、最後の処理の責任を持たなければいけないという、一般原則が確立されました。その結果、さまざまなリサイクル法制ができ、リサイクルが進みました。
家電リサイクル法は、大型家電品をメーカーが回収して、リサイクルするという法律です。消費者は、義務として使用済みの家電を引き渡して、リサイクル費用を払わなければいけない。つまり、環境を汚して利益を得たものが、その処理のコスト、原状回復のコストを払わなければいけないという、「PPPの原則」に基づいて、リサイクル費用を払うことになっています。そして、メーカーは、このような製品を回収して、リサイクルをし、さらには、リサイクル率といったものを達成しなければいけない、という義務があります。このように、製造した者が製品を回収して、リサイクルするというのが拡大生産者責任です。
私はよく「お片付けの理論」と言っていますが、地球を汚したからお片付けしましょう、ということに基づいているものだと考えています。
そもそも、リサイクルというのは、ものをつくる立場から言うと、とても難しい問題です。
リサイクルの材料を使って、製品をつくる場合、安定した循環をつくることが、非常に重要なのですが、これがなかなか難しいのです。
例えば、企業の場合、製品をつくるときに、品質・クオリティ、コスト、デリバリー(納期)を守ることが最大の目標となっています。ところが、リサイクル材料でクオリティを保つことは難しく、リサイクル材料の品質や価値というのは、若干下がってしまう、というのが一般的です。また、コストにしても、リサイクル材料をつくるためには、使用済みの、いわゆるごみを集める必要があり、そこに、人手と輸送費のコストがかかってしまうので、必ずしも経済的に有利だとは限りません。デリバリーですが、供給はごみなので、いつ、誰が、どこで捨てるか分からないため、この供給元(捨てる人たち)と使用先(リサイクル材料を使う人たち)のバランスをとるのが非常に難しいのです。
家電品においても、リサイクルしやすいようにネジの方向を合わせるといった設計が行われていますが、実際に製品がリサイクルされるときは、いわゆるシュレッダーに製品をそのまま投入し、大きな刃物で細かく砕くということを行ないます。残念ながら、ネジの工夫というのは、ほとんど生かされていないのが実情です。これでは品質の高いリサイクルはできません。
ただリサイクルすればよいというわけではなく、ヨーロッパのサーキュラー・エコノミーが狙っているように、質を維持し、安定した循環する仕組みづくりが今後の大きな問題として残されているのです。
ヨーロッパのサーキュラー・エコノミー政策の実現の方法のひとつとして、「エコデザイン指令」という法律があります。この中で、サーキュラー・エコノミーを実現するために、例えば、耐久性を高めること、修理しやすくすること、アップグレードしやすくすることなど、様々な循環性を高めるような製品設計をやりなさい。ということが指示されています。
これは、メーカーが、設計時に、このようなことを入れることによって、使い終わった後に、リユース業者など、メーカーではない人たちが出てきて、新しいビジネスができるようにする、ということを意味しています。これが、サーキュラー・エコノミーの基本的な狙いと言っていいと思います。環境問題の枠内だけでは、資源の有効な利用や循環がうまく成り立たない。なぜなら、経済的な仕組みが伴っていないからだ、ということで、経済の仕組み自体も変えてしまうことを狙っている法律だといえます。
市場競争の座標軸を変えて、中古業者が儲かるような社会になっていく。さらには、ものづくりや価値提供のやり方も変えようとする試みなのです。
これまでのサーキュラー・エコノミーの分析から、以下のようなことが見えてきます。
製品が、どのように使われて、どのように修理されて、どのように再生されるか、といった製品のライフサイクルを設計したり分析したりマネージメントする「循環プロバイダー」といったビジネスが出てくるのではないかと考えています。
また、デジタル革命によって、すべての製品の状態がリアルタイムに把握できるようになる。そして高度な循環化が行われると、新品や中古品、リサイクル品といったものの違いはなくなってきて、機能を果たすことが重要となり、それは総じて顧客の満足度を上げるというかたちに進んでいくと思います。
さらに、このような仕組みを実現するために製品設計も変わっていくのではないか、と考えています。今までのように、買って使い続けて捨てる、といったことではなくて、レンタルやリースをするための製品設計というのは、今までとは違うものになっていくのではないか、と考えています。
サーキュラー・エコノミーの構造分析 (講師提供の資料より) |
最後にまとめとして、我々はどういう行動をとるべきか、ということをお話します。
サーキュラー・エコノミーを実現するためには、やはり消費者が選択するかどうかにかかっています。具体的にいえば、サステナビリティのことを考えて、サーキュラー型の製品を普及させることです。メーカーがその重要性に気づき、そういう製品が売れるんだということで、メーカーがそちらに移行するような社会現象が起きればよいでしょう。
それから、長く使うこと。消費者はできるだけ機能を発揮している限り長く使えるような製品を選ぶべきだと思います。逆に言うと、長く使えないことに対して、メーカーにどんどん文句を言って圧力をかけることも重要です。
そして、価値観の変化への対応。サブスク(※2)、シェアリングといったものが若者を中心に流行っています。こういうものを積極的に活用してみることが重要なのではないでしょうか。
リサイクルがちゃんと回っているのか、回っていないのか。うまい循環が構築できているのか、できていないのか。そういうことを、きちんと見極める目を持っていただきたいと思います。
(※1)リマン
リマニファクチャリングの略語。使用済みの製品を回収した後、新品同様の製品として再生する方法。
(※2)サブスク
サブスクリプションの略語。製品やサービスの一定期間の利用に対して、代金を支払う定額制サービスのこと。
・大量生産・大量消費をこのまま続けていては地球が持たない、と思い始めていたところに、この講演を聴けて良かったです。
・本来地球のことは皆が考えるべき問題なのに、収入や環境によって受け取れる情報に範囲があることを、もどかしく思っていたので、東京都の取り組みに感謝しています。
・現在の動向や課題が、タイムリーに聴けて、大変有益でした。消費者ができることの提案もあり、参考になりました。
・視たい部分だけ視れることや、もう一度聴きたいことを確認できるのは画期的。
・自宅で家事をしながらでも聴けるので、参加のハードルが低かったのがうれしかったです。
・12~13分の三部構成は、集中して聴くことができてよかったです。