クリエイトホール11階視聴覚室で“くらしフェスタ東京2019地域会場 八王子会場”の講演会「これだけは知っておきたい!プラスチックごみ問題に私たちができること」を開催しました。
講師は東京理科大学教授 二瓶泰雄さんにお願いしました。身近なプラスチックが家庭や市街地から河川や海へ流れていることについてお話を伺い、プラスチックごみを減らすにはどうしたらよいかを考える機会になりました。
当日の講演概要をお知らせします。
二瓶泰雄さん |
私は八王子市出身で24歳まで住んでいました。八王子市はごみ排出への取り組み意識が高い自治体で、一人当たりのごみの排出量が少なく、平成29年度のごみ排出量の削減に取り組む自治体ランキングで一位となりました。(「平成29年度のごみ(一般廃棄物)排出の調査結果」:環境省/平成31年3月発表)
久しぶりに来たので街中を歩くと、八王子市でも道路にごみが落ちていました。雨が降るとごみが川へ、そして海へと流れます。ごみは不法投棄だけではありません。台風時には風に巻き上げられて飛んでいきます。講演では荒川河口の状況の写真を必ず紹介します。荒川は埼玉県、東京都を通り、東京湾へ流れ込む大河川ですが、荒川河口の葦を刈ると、瓶、缶、発泡スチロール、プラスチック破片が数多くあり、怖い物では注射針もあります。このほか、大量のマイクロプラスチック(以下MPと表示)が存在します。MPは、直径が5mm以下のものを指します。
プラスチックは年間3億トンが生産され、一人当たり年間数10kgを消費しています。(平成30年8月/OECD発表)ペットボトル、レジ袋をはじめ洋服にも含まれます。プラスチックは高温や紫外線、波や流れの作用で劣化し、小さな破片になりMPとなって、様々な生物が食べてしまいます。
また、プラスチックは軽く有害化学物質(PCBs、DDTsなど)を吸着しやすく、海洋生物に取り込まれます。MPは食べても人体から排出されますが、MPについた合成化学物質は分解せず、人体へ移行する可能性があります
プラスチックごみ問題は、現代の人間が作った問題でもあり、事業者(作る人、売る人)消費者(買う人、使う人)、行政の皆が束になり協力しないと解決できません。
2015年G7エルマウ・サミット首脳宣言では、プラスチックごみが世界的課題となっていることを認識しました。G7では、海洋環境の保護として陸域及び海域に由来する海洋ごみの発生源対策、海洋ごみの回収・処理活動並びに教育、研究及び啓発活動の必要性を提起しています。
また、SDGs(持続可能な開発目標)では、環境だけでなく、貧困問題や教育も一緒に考えていかなくてはいけないといわれています。
プラスチックが大量に使われている理由は、軽く、水に強く、高い耐久性があるからです。その特徴により、プラスチックは遠くまで運ばれ、環境中にいつまでも残ることになります。プラスチックの長所が、そのまま環境問題に直結することになります。このままMPが増えていくと、将来、川や海で遊んでいたことが信じられない話になっていきます。
海域へのMPが世界のどこから出ているかをみると、日本は30番目になり、その多くが陸域から排出されています。(「プラスチックを取り取り巻く国内外の状況」:環境省/平成30年8月)また、アメリカのミネソタ大学などの研究グループの報告によれば、日本はまだ報告されていませんが、国外では、MPはすでに水道水から検出されています。水道水は川から引いてくるので不思議なことではありません。さらに、人間の排泄物からもMPは発見されています。世界の水道水汚染を見ると13ヶ国で検出率は81%になります。形状は繊維状で平均の長さは0.96mm。0.10mmのものもあり、フィルターで完全に除去するのは難しいとみられ、洋服の繊維と思われます。ほかに小さな破片やフィルム状のものもありました。
日本のプラスチックごみは年間903万トン排出され、その有効利用は86%と想定され、14%は焼却、埋め立てされています。有効利用のなかでサーマルリサイクル(燃やして熱エネルギーに利用)が67%で、一度きりの利用になっており、実際にはリサイクルできていません。(「2017年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況」:プラスチック循環利用協会)3Rの中でもReduce(発生抑制)を優先させないといけません。
今年、G20大阪サミットでは「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン ~2050年まで海洋プラスチック排出ゼロに~」を提唱しました。プラスチックごみを海に出る前にストップさせるということです。海洋ごみやMP問題は人ごとでなく、我がこととして考えましょう。
MPは陸域から海域にどのように移動しているのでしょうか。MPには二種類あり、「一次MP」は5mm以下のもので、レジンペレットや歯磨き粉に含まれる、マイクロビーズといわれるものです。「二次MP」は、大きなプラスチックが太陽光などで劣化し、小さくなったものをいいます。MPは、海域だけではなく、陸域から海域に移動しても不思議ではありません。その動態は調査が難しく、予想で究明できていない部分もありますが、私たちが行った全国調査の結果は、次のとおりです。
日本全国の70河川で1にあるMP数密度(個数)を観測した結果、全国平均では1に4.3個でした。ワースト1は、手賀沼に流れる大堀川(千葉県)で、多摩川は日野橋地点が高く、全体的に中流域から多く検出されています。
また、別の調査では日本近海のMPは、世界の海域の30倍と言われています。暖流と寒流がぶつかり合うことからさまざまなところから流れてくるためですが、調査結果によると、日本の河川から流れていることも無視できません。
MP数密度の観測結果では、流域内の土地利用(市街地率)や人口密度の高い地域でMPが多く見られ、最も多いのは、東京、名古屋、大阪でした。地震や水害など大量のごみや土砂崩れなどの被災地のほか、河川水質濃度の高い河川でもMP数密度は高くなっています。また、MPのサイズをみると、河川と海洋はほぼ同一で、海に入る前にMPは細片化していることがわかります。
まず、第一番目の候補は、市街地のポイ捨てが考えられます。市街地ごみの調査を川崎駅、金町駅、練馬駅周辺で行いました。落ちているごみを写真に撮り、ごみの量を4段階に分類しマップを作成したところ、練馬駅周辺が一番きれいでした。練馬駅周辺では清掃活動している方々がいるそうです。また、割れたバケツや割れたコーンなどプラスチックの破片が多数見つかりました。プラ製品の不用意な扱いがMP発生の要因になっています。ごみ置き場近くには溢れたごみが散乱し、ごみの回収を適切に行わないと、ポイ捨てと同じ状況になることもわかりました。
二番目の候補は、家庭から排出される生活排水です。河川水と下水を比較すると、どちらもFragment(断片状)が多いのですが、下水からはFiber(繊維状)も多く見つかりました。Fiberの発生源は私たちの洋服などです。合成繊維の布地を洗濯機で洗濯すると大量のMPが発生します。Fiberの発生源調査では、洗濯機のネットのごみ材質と下水から見つかったFiberの材質は70%合致しました。
SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標中「13.気候変動に具体的な対策を」は温室効果ガスのことを、「14.海の豊かさを守ろう」はプラスチックごみのことを示しています。プラスチックごみ問題は、人間一人一人の消費・排出、生活に欠かせないものであり、個人規模から地球規模での対応が欠かせません。
講義の後、会場の参加者が、周りの人と話し合い、発表を行いました。内容は、身近にあるプラスチック製品を思い浮かべ、「すぐに捨てるもの」と「一か月以上使用」するものに分け、利用の頻度と代替策とその実現性(できる・頑張ればできる・難しい)に分類し、プラスチック問題について考えました。まとめとして、二瓶さんから、次のようなお話がありました。
「脱プラ、減プラに向け自分でできることはあります。日本人は世界二番目にプラスチックごみを排出しているといわれ、一人当たり年間32㎏排出しています。3大プラスチックといわれる弁当の容器、ペットボトル、レジ袋は使い捨てになります。長く使うプラスチックより使い捨てのプラスチックを見直すだけでも、大きくプラスチックごみを減らすことができます。」
参加者一人一人が脱プラ生活についてチェック |