コロナ禍で始めたオンライン開催によるメインシンポジウムは、本年で早くも3年目となりました。
講師に、テレビ等でご活躍の菊地幸夫さんをお迎えし、多様化する消費者被害についての講演会を開催しました。くらしに潜む悪質商法から身を守る方法や、私達消費者の行動や考え方のヒントを、ユーモアを交えてお話し頂きました。
以下は講演の概要です。
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第1部では「特殊詐欺」を中心にお話がありました。
消費者被害の中心的な要素として、「人の心の弱さを狙う」があると思います。私たちはどこかに弱いところがあり、まさにそこを突いてくる、狙ってくるというのが、消費者被害の特徴です。
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私たち弁護士は特殊詐欺の犯人側と関わることがあります。私も当時まだ高校生だった男子を担当したことがありました。その男子は部活を辞めて繁華街をふらふらしている時に声を掛けられました。「簡単なバイトで2万円もらえる」と聞いて、軽い気持ちで片棒を担いでしまいました。「お前使えるな、賢いな」と言われ、段々倫理観が麻痺していってしまいました。一番多い時には、月70万円を貰っていたそうです。
こういう組織はそれぞれ役割分担があります。騙された人のところに行ってお金をとってくる「受け子」、受け子を現場まで連れていく「運転手役」、「〇〇の駅の△口で待っていろ」などと言う「連絡役」。もちろん電話をかける役。そのうえにリーダーがいて、メンバーが持ってきたお金を吸い上げます。
結果として、そのグループが何百件、事件を起こしているのか分かりません。警察が裏付け捜査をし、証拠を集めると言っても、限界があります。私が弁護した案件では、警察が立件出来たのは4件だけでした。多くの事件は闇に葬られる、これが現実です。
昔は個人情報満載の電話帳というものがありました。今は名簿屋が「一人当たり〇円」という情報料で、簡単に個人情報を売り渡します。詐欺集団はその名簿を見て、狙いをつけて電話を掛けてきます。被害にあった方々に、ほとんどお金は戻ってきません。
「自分は大丈夫。子どもの声を聞き間違えるわけがない。」と思っていらっしゃる方が多いと思います。でも、多くの方が実際に被害に遭っています。相手は非常に巧みです。単純なものから劇場型と呼ばれるようなタイプとか。何本もシナリオがあります。演技力が高く相当手ごわいです。
「いやいや私は大丈夫。」とお思いの方、あなたが実は危ないかもしれません。そういう電話がかかってきて、見破ればそれで構いません。万一騙されてしまったら、要求されるお金は多額です。多額のお金を買い物で動かす時は誰かに相談されるのではないですか。それと同じです。必ず誰かに、しかも二人の方に相談してください。お一人は身近な方、二人目は全く関係ない、警察とか消費生活センターとか、冷静に判断してくれるところに相談してください。
「人の心の弱さを突く」「弱さを狙う」、まさにそこを突いてくるのが特殊詐欺です。特殊詐欺の被害額はだいたい一年間で300億です。今日も1億、明日も1億、それがこの日本中で毎日起きているという状況があります。みんなで注意して、この被害に引っ掛からないようにして頂きたいと思います。
第2部では、「人の心の弱さを狙う」消費者被害の実例を挙げて、以下のお話がありました。
1 繁華街で「美容に関するアンケートです。」と声を掛けられ、エステサロンに連れていかれ、多額のエステ契約をさせられた事例
2 出会い系サイトで知り合った女性に誘われ、展示即売会に連れていかれ、高級なスーツを買わされた大学生の事例
3 「これを買えばあなたの運命を変えられる」などと勧誘されて、霊感商法に引っ掛かった事例
何とか今の苦境を脱したい、藁にもすがりたいという弱みを突いてくる。お金で解決できるのであればお金を払ってしまおうという、人の弱みに付け込まれ、そのまま誘い込まれてしまう方も沢山いらっしゃいます。
まずは冷静になることです。「耳で買うな 目で買え」という言葉があります。
「耳で買うな」人の口だけを信用するな、ということです。「目で買え」つまり、自分の目で見て、「この商品は確かか?自分に必要なものか?この価格にふさわしい価値のあるものか?」それをちゃんと確認してから買いましょう。
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第3部では、「クーリングオフ」の説明がありました。
「聞いたことはあるが、クーリングオフって何だろう?」という方もいらっしゃると思います。これは法律で定められている、一旦締結した契約を白紙にするという手段です。我々の生活というのは、基本的には約束は守らなければならない。約束をした以上、簡単にほごにしてしまっては、この世の中成立しなくなります。電気や水道は供給契約、スーパーの買い物は売買契約。「お金を払うからこれをください。」これはみんな契約です。これで社会は成り立っています。
しかし、キャッチセールスで連れていかれて契約してしまった。アポイントメントセールスで長時間拘束されてサインしてしまった。その契約はやはり守らなければならないのでしょうか?「これは酷だな、助け出してあげなければならないな」というものを抽出して、それについては、例えば8日間とか、20日間とかの中で、それを白紙に戻す、という制度がクーリングオフです。
原則、契約は守らなければなりません。一旦結んだ契約を白紙にする、ということでは、クーリングオフは例外です。例外ですから、どこでも何でも使えるわけではありません。例外的だからこそ、限られた期間にのみ白紙にできるというような位置づけになっています。
このクーリングオフは、あとで証拠に残るような郵便(ハガキなどを簡易書留か特定記録郵便等で送付。又は内容証明郵便。)で発送してください。問題となった時に「クーリングオフしましたよ」と言える制度があるということを覚えておいてください。
極めつけは「人の心の弱さを狙う」です。
「楽して儲かります。」「あなただけですよ。」
「要領よく手っ取り早く儲かりますよ。」と言われて、ちょっと考えれば、「これ怪しいな」と思う話に、心がグラっと動くのです。そこは少し冷静に考えて、「そんな話はあるわけない。」「そんな話が回ってくるわけはない。」その瞬間にアウトにしてください。これでいいのです。
本当はみんなで信頼し合って、助け合って、生活するのが一番いいと思います。ところが、毎日多額の被害が出ている現状があります。残念ですが、脇を締めて、どこか頭の隅を完全に緩めない、完全に油断しない、クールな部分が、自分を守るために必要なことだと思います。
もう一つ「欲しい物は買うな、必要な物を買え。」この言葉を覚えていて頂きたい。お金は世の中で大切なものです。お金が無ければ生活していけません。でも、身の丈に合った、自分の能力に合った、そういうお金でいいのだと思います。お金で買えない貴重な大切なものを持っていらっしゃる方というのは、もしかしたらあまり被害に遭わないのかもしれません。皆さんもどうぞ、消費者被害に遭わないようにお気をつけて暮らされるようにお祈りしております。
・お話も面白く、わかりやすく、大変役に立ちました。「欲しいものを買うな。必要なものを買え」は非常に良いお言葉だと思います。
・自分は大丈夫とは思っていませんが、どこで言葉巧みに騙しにくるかはわかりませんね。いつも、良いな、欲しいなと思っても、ちょっと引いた気持ちになって、それ、必要?と確認する癖を身に付けたいです。
・若い方の被害例を聞いて、消費者被害に皆があわないための対策、学習会を小学校から学校で学べるといいと思いました。
・3部構成だったのでメリハリがついて集中して聞けました。お話もわかりやすく、為になりました。